明渡猶予制度とは、不動産が競売にかかって競落されたときに物件の賃借人が明渡期限を猶予されて、一定期間物件の利用を続けることができる制度です。猶予される期間は「買い受けの日(競落人による代金納付日)から6か月間」です(民法395条)。
その期間が経過したときには、賃借人は建物の継続利用が認められなくなり、明け渡す必要があります。
抵当権が設定された後に物件を賃借した賃借人は、競売が行われたときの不動産の落札者に賃借権を主張できません。落札者から明け渡しを求められると、すぐに物件を退去しなければならないのが原則です。
しかし不動産を居住や事業の場所として利用している賃借人が、「競売」という突然の事情によっていきなり明け渡しを求められると不足の不利益を受けてしまいます。そこで法律は明渡猶予制度をもうけて一定期間明け渡しを猶予し、賃借人の保護を図っています。
競落されてから半年の猶予があれば、賃借人も次の入居先を探して移転するのに充分だろう、という考えです。
2004年以前には「短期賃貸借」という制度があり、短期賃貸借契約の賃借人は落札者へ賃借権を主張できました。しかし短期賃貸借権は強すぎて落札者が害されるケースが数多く発生したので廃止され、代わりに明渡猶予制度がもうけられました。
明渡猶予制度が適用される場合でも、賃借人は物件の利用を続けるので所有者(落札者)へ物件利用の対価を支払う必要があります。落札者が催告しても賃借人が対価を支払わない場合、所有者は賃借人に対する「明渡請求」が可能となり、裁判所へ申立をすれば認められて賃借人に対して明渡命令が下される可能性があります(民法395条2項)。